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このページは定期更新型ネットゲーム「FALSE ISLAND」に参加しているEno.1551の中の人がいろいろとぼやく場所です。わからない人は回避で。
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3-2、
 雨。

 エイリルの王都上空を抜け、その先の農地や牧草地を越えて、ノキアスの波状丘陵の先。

ミリアとディーノが合戦場となっているオルドビス平原に着くころに、ぐずぐずと鼻を鳴らしていた空がついに泣きはじめた。

 それほど雨脚は強くはなかったが、それでも視界の悪化は否めない。

 天候は、どうやらラスタの味方をしているらしい。

 波状丘陵の内側に数箇所設置された、オルドビス第二防衛ラインの拠点にはすでに各部隊が集結し、迎撃に向けて慌しく動いていた。

 その拠点の上を越え、さらにノキアスの丘陵を越えるといよいよ眼前にオルドビスの大平原が姿を現した。

 ノキアス丘陵外側すぐのところに魔導士部隊が陣取って遠方からの魔法攻撃を行っている。その先、魔導士部隊の魔法攻撃が着弾している地点よりは少し手前のところで神剣騎士団がトロルを相手に戦っている。その上空には百竜騎士団の部隊が展開し、キメラ部隊と交戦していた。

 その光景を眼にして、ミリアは瞬時に違和感を覚える。

 ――おかしい。

 天気は雨だ。空を駆る竜騎士を主戦力とするエイリル王国軍にとってそれは少なからぬハンデになる。自国領内であるとはいえ、この大草原が舞台では生かせる地の利もそうそうあるものでもない。戦況は明らかにこちら側に不利に働いている。

 それが、実際にはどうだろう。

戦闘は圧倒的に味方の方が押していた。

しかし、あの時エドと二人きりになっていた会議室に飛び込んできた伝令役はこう叫んだのだ。

『中央のオルドビス第1防衛ラインがラスタ帝国によって突破された模様!! 百竜騎士団第Ⅰ小隊のε班および神剣騎士団重曹第810歩兵隊壊滅!! 死傷者多数!』

 目の前に広がる光景は、とてもそんな劣勢に立たされている様な光景には見えなかった。

 それに、もうひとつ気になることがある。ラスタの陣営に生身の人間の姿がないこと。

 たとえゴーレムやトロルを前面において戦うのだとしても、それらを統率するための人間が必ず必要なはずだ。しかし、その統率するべき人間の姿さえ、この戦場にはない。

 それゆえ、キメラ部隊もトロル部隊も行動に均一性を欠き、部隊としてまるで機能していなかった。

 しかし、ここは間違いなくオルドビス第1防衛ラインの内側だった。ヤツらが第1と第2の防衛ラインのちょうど真ん中に突然沸いて出たのでない限り、第1防衛ライン突破の報は間違いなく事実だろう。

――おかしい。絶対になにか裏がある。

 この劣勢を一気に覆すだけの“裏”が敵陣のどこかに隠れているはずだ。そう思ってミリアは、上空を旋回しながらあたりを鋭く見回した。

 しかし、その“裏”は突如として上から降り注いだ。

 飛来する赤黒い黒炎球。

強大な力を秘めた炎の球は戦場のど真ん中へと打ち込まれ、

展開していた竜騎士部隊を、交戦していた神剣騎士隊を、味方のキメラ部隊やトロル部隊をも飲み込み、一瞬にして消し去っていた。

 立ち上る巨大な火柱。

 地を揺るがすほどの轟音。

 わずかに時を置いて吹き付ける猛烈な風に煽られながら、

「ミリア、上っ!!」

それでもディーノは遥か上空の一点を指し示していた。

烈風の治まりを待ってミリアも空を凝視する。

泣き続ける雨の中、雨雲のすぐしたあたりの高度を黒い点が飛行しているのが見えた。

 わずかに見えるその形は、

「……あれって、まさか」

「とにかくあそこまで行くわよ!」

 

 

 

 雨。

 降りしきる雨は、段々とその雨脚を強め、あちらこちらで稲光が見られるようになった。

 そんな、空から降ってくる雨粒に逆らうように、ミリアとディーノは上昇を続ける。

 目指すは、オルドビス上空に姿を現した黒い影。ミリアが予見した“裏”の正体。なるべく相手に悟られないよう、いったん相手の背後にまわってから上昇を始めた。その黒い影の姿が徐々に大きく見えてくる。

 地上近くから始めてその姿を眼にしたとき、ミリアもディーノもそいつの正体がなんであるか、すぐに気付いていた。しかし、それは到底、認められるものではなかった。

 それももう、認めざるを得ない。

 そいつは、

「くらえーーーーーーーーーーっ!!」

 射程圏内に入ったところでディーノは立て続けに6発もの火炎球を打ち込んだ。しかも、後から放った5発は1発目を避ける時に予想される回避経路をすべて埋める形で放たれていた。

 しかし相手は、その大きな体躯に似合わない俊敏な動きでディーノの張った弾幕の外側へするりと抜けてしまう。

 旋回する黒い影と上昇を続けるディーノとが交差する。

 その黒い影の姿を横目に見ながら、ディーノが信じられないといった口調で、

「……ほんとうに、ドラゴン?」

「ええ、……ブラックドラゴン=フェルツァ」

 黒い影の姿を横目で追いながら、ミリアは影の正体を口にした。

 黒い鱗。巨大な翼。ディーノの3倍はあろうかという大きな身体。鋭い金色の双眸。その背中に、

 その背中に竜騎士の姿はなかった。

「……なんだって、ラスタにドラゴンなんかいるのさ!? しかも単体? どういうこと!?」

「わからない。……わからないけど」

  “ドラゴン”という絶大な力は、もうエイリル王国だけのものではなくなった、ということなのかもしれない。

 敵国と対峙したとき、ドラゴンの力は絶対で、その力は常にエイリル王国だけが持っていたものだった。この国が700年以上にも渡ってこの地で栄えてきた確固たる所以がそこにはある。

 しかし、その定式は、いまこの瞬間をもって崩れようとしているのかもしれない。

いま対峙しているこのブラックドラゴンが単発のものなのか、それとももう一部隊を形成できるだけの数がラスタ帝国にはあるのか、この時点ではなんともいえない。

しかし、ラスタが年々力を付けてきているのは明らかだ。一昨日の巨大ゴーレムにしてもそうだ。彼らの軍力はエイリル王国のドラゴンを超えようとしている。

エイリル王国を支えてきたドラゴンの力は、もう、絶対ではなくなったのかもしれない。

 その考えにミリアは戦慄した。

 ……ならば。

 ――負けるわけにはいかない!

 自分たちの力を絶対のものとするには、このドラゴンを倒してそれを証明しなければならない。この闘いは、ホワイトドラゴンの竜騎士と単体のブラックドラゴンとの闘いなんかじゃない。そのまま、エイリル王国とラスタ帝国の戦いを意味するものだ。

 この闘いの敗者は、滅ぶのみ。

 ――負けるわけにはいかない!

「……いくよ、ディーノ」

「うん!」

 雷鳴が轟く。

 悲壮な決意を胸に、ミリアとディーノは空を駆る。

 一度大きく羽ばたく。降りしきる雨粒を散らして旋回し、相手の背後を狙う。

 そうはさせまいと、ブラックドラゴンは空中で身体を捻り、後頭部から逆さまに落ちるように急降下。一気に雨粒を置き去りにするほどの速度を得て落ちて行く。

 後を追って降下。しかし、その時には相手はすでに上昇の態勢に入っている。

 動け! 反応しろ! もっと早く! 相手よりも早く!

 追って下降から上昇。しかし、相手の背中は狙えない。

ブラックドラゴンは上昇の態勢からそのまま縦に円を描く軌道に入る。それを追ってディーノも空に弧を描く。

 大地が頭の上を通り、雨雲が足元に広がる。ミリアは襲いくる猛烈な風圧に耐えながらも必死に敵の位置を見定める。

 まだだ! まだ届かない!

 雷鳴が轟く。

天と地が元の位置に戻ってきたところで、今度は左に急旋回。ディーノが後を追う。

そのまま旋回を続け、二匹のドラゴンが同じ円の上を背中合わせで飛ぶ。

これ以上円周を縮めたら失速して落ちる。そのギリギリまで詰めるがブラックドラゴンの背中を捉えられない。敵はどうあっても、背中を取らせないつもりのようだ。

2、3回、背中合わせに回ったところで水平飛行へ。そこからすぐに、螺旋を描くような錐揉み回転をして一気に上昇へ移る。

逃がすもんか! 絶対に追いついてやる!

風を切り雨を弾きながら空へ。

瞬間、捉えた相手の背中にディーノが火炎球を放つ。相手の尻尾に噛り付けそうなくらいの近距離から放った一撃は、しかし、ブラックドラゴンがまたしても縦旋回。火炎球は掠りもしない。さらに後を追う。

ブラックドラゴンは2度の縦旋回の後、今度は右に旋回。

一方、ディーノは1度の縦旋回の後、左旋回。

旋回の軌道上で、お互いが真正面からぶつかる形になる。今度は相手も打ってきた。

黒い火炎球と白い火炎球。お互いのすぐ横を掠めて、二つの火炎球が交差して行った。

黒いドラゴンを頭上に睨み、白いドラゴンを眼下に見据えて、二匹が交錯する。

雷鳴が轟く。

ブラックドラゴンはそのまま更なる上昇を始める。

対してディーノは一気に速度を落とし、身体を無理やりねじって反転させ進路を180度転換してブラックドラゴンの後を追う。速度を落としたために開いてしまった距離を埋めるべく翼に力をこめた。横暴なまでの風を巻き起こし、ディーノの身体が加速する。

さらに空へ。

途中、ブラックドラゴンはまたしても縦旋回を見せる。しかし、今度は回避が目的ではない。こちらの背後を狙うための経路。

させるか!

それに対して、ディーノは上昇しながら小さく左旋回。相手がこちらの背中を捉えるはずだった位置を掠め、再びブラックドラゴンの背中を狙う位置につける。

ディーノの優勢は揺るがない。

相手はその大きな身体の割に俊敏な動きを見せる。実際、追いつけそうでなかなか追いつくことが出来ない。しかし、飛翔の加減速に関しては身軽なディーノの方にかなり分があった。結果、徐々にではあるがディーノがブラックドラゴンを追い詰める形になっている。

行ける!

その後もブラックドラゴンは複雑な飛行進路を取り、なんとかディーノを振り切ろうと試みているようだが、ディーノはその背後にぴったりとくっついて離れない。

徐々に、ディーノの攻撃回数が増えていく。それは同時に、ブラックドラゴンの背中が近づきつつあることを意味していた。完璧に捕捉するのはもはや時間の問題だった。

雷鳴が轟く。

そして、その時が来た。

 それは明らかに、相手のミスだった。下降から上昇への進路を取ろうとしたとき、その角度があまりに急だったためにあえなく失速。上昇することも一気に下降する事も出来ず、空中に漂ってしまう。浮力を失ったせいで顔をまっすぐこちらに向けていることすらできず、

 相手を追って降下してきたディーノにはその背中が丸見えだった。

「いまだ!」

 その背中めがけて必殺の一撃を繰り出す。巨大ゴーレムを打ち抜いたあの一撃。

 実を言えば、この空中戦の最中ミリアは転換の魔法陣を待機(スタンバイ)の状態でずっと止めていた。その時が来るのを待って。

その時が訪れた。

「集積は光となる!」

 温存していた最後の言葉を放ち、ミリアは虚空に魔法陣を展開する。

「いっけーーーーーーーーーーーーっ!」

 その魔法陣を介して、ディーノの火炎球はその威力を圧倒的なものとし、

 ブラックドラゴンの背中を完璧に捉えていた。

 轟きと閃光の中にブラックドラゴンの姿は埋没し、しばらくの後には、あたり一面を濛々と立ち込める煙が包んでいた。

「やったーーーっ!」

 立ち込める煙を横目に通り過ぎながら、ディーノが喚起の声を上げた。

 これで負けたら自分の国が消えてなくなってしまうかもしれない。そんな悲壮感からようやく開放され、声にこそしなかったが、ミリアはひとつ大きく息を吐き胸を撫で下ろした。

 勝った。これでエイリルが滅びることはない。

 雷鳴が轟く。

 相変わらず雨は降り続いていたが、気分は晴れやかだった。

「やったねミリア! あとはいつものザコを倒せば終わりだね♪」

 そうだ。まだ戦いは終わってない。

 ブラックドラゴンを追いかけているうちにかなり離れたところまで来てしまったが、第2防衛ラインの近辺にはまだキメラやトロルの部隊が残っているはずだ。そいつらを倒さない限り、本当に終わったとはいえない。

「そうだね。気合入れて、最後まで頑張ろう!」

「うん! よーし、ちゃっちゃと片付けてとっとと帰るぞー!」

 気分はやたらと晴れやかだった。なにかとても大きなことを成し遂げられた気がした。

 いつもならそんなことはたいして望まないだろうが、今日は違う。自分たちのしたことを誰かに褒めて欲しい。むちゃくちゃに褒めちぎって欲しい。そんな気分だった。

 第Ⅰ小隊の連中はきっと悔しがることだろう。また、なんだかんだとイチャモンを付けてくるに決まってる。でも、今回ばかりはぐうの音も出ないはずだ。

 あいつの姿を見た兵士が何人もいるはずだ。きっと証言はあちこちから出てくるだろう。

 雷鳴が轟く。

ミリアの顔に自然と笑みが浮かぶ。自分が倒した敵の大きさを思う。

そして、その巨大な敵を倒したという事実をもう一度確認するように背中を振り返り、

“そいつ”はそこにいた。


↓NEXT Dragonballade chapter3-2
http://damennzwalker.blog.shinobi.jp/Entry/15/

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