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5、
エイリル王都からはだいぶ離れた片田舎。広大な牧草地が広がるなかにぽつんとひとつ白い建物が建てられている。
建物はなにかの寮のようにも見えるし、学校のようにも見える。しかし実際にはどちらとも違っている。入り口の門のには“療養所”の文字があった。
ここはその名のとおり、エイリル王国軍兵士が重度の怪我を負った際に、ここでしっかりと傷を治すためにと建てられた軍部私営の療養所だった。
東の棟の一階、一番奥の部屋。天井も壁も白で統一された清潔感あふれる部屋、その窓際に置かれたベッドにミリアの姿があった。
1ヶ月ほど前、オルドビスの第2防衛ラインを背にラスタ帝国軍との間に戦いが起きた。現在この療養所にいるものはほとんどがその闘いの時に負傷したものたちだった。
あの日、ミリアはブラックドラゴンの黒炎球を体に受け、全身火傷を負った。ここに運ばれてきた時、顔にも包帯が巻かれそれが誰なのかすら分からないような状態だったが、今ではそれも取れ――いまだに体のあちこちに包帯を巻かれてはいたが、とりあえずそれがミリアであることが分かるくらいには回復していた。
そうなってくると、問題がひとつでてくる。
「…………ヒマだ」
傷は完治していないものの体は十分に動かせる。しかし、まだ完全に直ってないのだからという理由で患者は安静にして寝ていることを強制される。たとえ、動き出すことを許されてもそれは療養所内に限定される。
できることが増えていく一方で、無茶をしてはいけない、やってはいけないことも増えていく。そのギャップの中に生まれる鬱積がピークに達する時期。
そんな時期にミリアもさしかかっていた。
ここに入れられて、しばらくの間はセルマーやメグやエミリアンなどが頻繁に見舞ってくれていたが、最近ではその数も減り話し相手にも事欠いていた。
他にやるべきこともなく、しかたなくミリアはベッドに横になり退屈に本を読む毎日を続けていた。
しかし、元来それほど読書が好きではないのでそれにもすぐに飽きが来てしまう。
そうすると、もうやることがなくなってしまう。
そんな鬱屈な日々に突然一筋の光が舞い降りた。
「ミリア~ッ、お見舞いに来たよ~」
ディーノだった。
パートナーの姿を窓の外に見た瞬間、ミリアの心はすでに決まっていた。
ミリアの顔に小悪魔な笑みが浮かぶ。
「さすがね、タイミングがよく分かってるわ」
「えっ? なに? なんのこと?」
戸惑うディーノを尻目に、ミリアはそそくさとベッドを抜け出し寝間着のまま鞍も着けられていないディーノの背中に飛び乗った。
「ちょっとお散歩にでも行きましょう」
「……え? 出ちゃっていいの? ホントに?」
「だいじょぶだいじょぶ。構わないから、行っちゃって」
ミリアの言葉を受けてディーノが大きく羽ばたく。ふたりはあっという間に天高くへと昇っていってしまった。
風を受け、空を駆る。
1ヶ月ぶりに乗ったディーノの背中がすごく気持ちよく感じた。
ディーノも1ヵ月ぶりに背中にパートナーを乗せての飛行にずいぶんと満足げだった。
ディーノが言う。
「ねえ、ミリア。僕ね、ついこないだずっと探してたものをやっと見つけることができたんだ」
「探してたものって?」
「ヒミツ」
「なにそれ。いいじゃない教えてくれたって」
「イヤだよ。恥ずかしいもの」
まるで春画を初めて見た少年みたいなセリフ。ミリアがからかうと、ディーノは「そんなんじゃないよ!」とあわてて反論した。
その慌てぶりが相当おかしかったのか。ミリアの爽快な笑い声が空に響く。
「そんなに笑うことないじゃないか!」
「ご、ごめんごめん。だって、すごいおかしかったんだもの」
「もーっ」
「わかった、わかったから。そんなに怒らないで。――それで? 探してたものをやっと見つけたってとこまではいいわね」
「……うん」
ミリアに続きを促がされ、それでもディーノはしばらく言い淀む。
やがて、小さく口を開き、
「……それでね、僕は決めたよ。そのやっと見つけ出せたものを僕はなにがあっても守って行こうって決めたんだ。だから、ミリア」
「? なに?」
「これからもよろしくね」
一匹の白い竜が東の空へと飛んでいった。
-Fin-
4-2、
雨。
いいかげん雨は降り止まない。
空を覆う雨雲は晴れそうにもなかった。
オルビドス平原の只中で、雨に打たれながらディーノは横たわるミリアにぴったりと寄り添っている。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
僕はずっと探していたんだ。“お母さん”のことを。
あの日、「おはよう」の言葉をくれたヒトのことを。
ずっと。ずっと。
だけど、僕は、“お母さん”は自分と同じ姿をしていると勝手に思い込んでたんだ。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
知らなかった。全然気付かなかったよ。
まさか、“お母さん”がこんなに近くにいたなんて。
いつも僕の傍にいてくれてたんだね。
いつも僕のことを見守ってくれていたんだね。
ありがとう。お母さん。
もう少し。もう少しだけこのままで。
耳はミリアの胸元に置かれたままだった。
そんなディーノの頬に触れるものがあった。それはいまにも力を失って崩れてしまいそうなミリアのか細い手。まるで泣きじゃくる我が子を宥めるように、ミリアの手がディーノの頬を優しくなでる。
「どうしたの? ディーノ。私は、大丈夫よ」
「……よかった。死んじゃったんじゃないかって心配したよ」
「大丈夫だから、……それより、ディーノ、ちょっと重い、かな」
「あ、ゴメン」
あわててディーノは頭を上げる。
ディーノの頬に触れていたミリアの手が支えをなくして地面に朽ちた。その様子を目の当たりにして、ディーノの胸は締めつけられた。
「ミリア、ホントに大丈夫?」
「……うん、ヘイキヘイキ。……でも、ちょっと、無理しちゃったかな」
「ちょっとどころじゃないよ、もう。あんな無茶もうしないでよね」
「ヘヘヘッ、まさか、ディーノに、怒られるなんて、思わなかったな」
そういいながら微笑むミリアの眼は、大丈夫。ちゃんと光を宿している。
それを確認し、ディーノは遥か上空を睨みながら決心する。
行こう。
いま僕がやらなければならないことをするために。
大切な人を守るために。
「ミリア、立てる?」
「……ん? ちょっと、厳しいかな」
「じゃあ、……ちょっと痛むかもしれないけど我慢してね」
ディーノは鼻先をミリアの背中と地面のわずかな隙間にねじ込んでその身体を器用に持ち上げた。そのまま頭の上を通し、少しずつ滑らせるようにしてミリアを自分の背中へと移した。
「どこかに掴まってられる?」
「うん、大丈夫。……どうにか、鞍に掴まれそう」
「そう。それじゃ行くよ」
降りしきる雨の中、ディーノはミリアを落とさないように慎重に飛び立った。
目指すは、味方本陣の救護テント。
そこまで行ければ、ひとまずは安心だろう。
ブラックドラゴンを追いかけてずいぶんと遠くまで来ていたようだった。彼方の草原で両軍の兵が入り乱れ時折火柱を上げている。
その上空では、エイリル王国の竜騎士数騎とブラックドラゴン=フェルツァ。数的不利をものともせず、黒い悪夢は我がもの顔でオルドビス上空を滑空している。
雨。
エイリルの滅亡を予期するように、それをあざ笑うかのように止まない雨。
そんな暗い雨に煙る草原の先、ノキアスの波状丘陵の内側にエイリル王国の旗――味方の本陣が見えてきた。
「もうすぐだよ。ミリア」
丘陵を越え、手前で速度を緩めてディーノは静かに降り立った。
いまや陣内は兵士たちが慌しく行きかい、怒号と叫喚に渦巻いていた。
「誰か!! 誰か救護班を呼んで! ミリアが! ここにも負傷者がいるんだ!」
ディーノがあげる必死の叫びも、この中にあっては届く宛がない。
それでも、ディーノは助けを求めて歩き回り、叫び続けた。
その背中に、聞き慣れた声が掛けられる。
「ディーノ! どうした!?」
声を聞いて、振り向いた先には駆け寄ってくる第Ⅲ小隊のメンバーの姿があった。
ようやく見えた救いの手に、思わず泣きそうになりながらディーノも3人の元に歩み寄る。
ディーノの背中でうなだれるミリアの姿に最初に気付いたのはメグだった。変わり果てたミリアの姿に息を呑み、
「……ミリア、どうしたの!?」
「ま、まさか。……死んでる?」
メグに続いて、エミリアンも狼狽した様子で声を震わせた。あまりの衝撃にいまにも腰を抜かしそうになっている。しかし、
「…………生きてるわよ」
「……」
まあ、本人が言うのだから間違いないだろう。蚊の鳴くような声でも確かにミリアは応えていた。
とりあえず意識はしっかりしているようだった。それでも、あまり悠長にしてもいられないだろう。
エミリアンがディーノの背中から慎重にミリアを抱きかかえ、
「ちょっと、……まって」
抱きかかえられながらミリアが弱々しくこちらに目を向けていた。ようやっとといった感じで手を伸ばし、ディーノの頬に触れながら、
「ディーノ、これからどうするつもり」
なにか伝わるものがあったのだろう。ディーノがこれからなにをしようとしているのかを知って、ミリアはそのことを確かめようとしているようだった。
大丈夫。僕は大丈夫だから。
その強い意思を眼差しに込めてミリアに送り、頬に触れるミリアの手を振り払うように戦いの続く上空をするどく振り仰いだ。
雨。
戦場を塗りつぶす雨。
叩くように降りしきる雨に眼を細めながら、ディーノは告げる。
「僕は行くよ」
「……そう。気をつけて、行ったまま帰ってこないなんてイヤだからね。……ちゃんと、帰ってきて」
「うん。それじゃ、行って来ます」
ディーノは力強く羽ばたいた。
再び、空へと。
雨。
雷鳴が轟く。
オルドビス平原の上空。地上で行われている戦いはまだしばらくは終わりそうにない。
その上空ではいま、5騎の竜騎士がブラックドラゴンと戦っていた。しかし、複数人数の竜騎士を相手にしても、そいつの優位は揺るがなかった。
あっという間に、3騎がやられ、その様を見て怖気づいたのか、残りの2騎は早々に逃げ出してしまった。
おそらく、こちらにはもう気付いているはずだ。だったら、ヘタな小細工はいらない。正面から堂々と向き合ってやる。
鋭い眼光を双眸に宿し、ディーノはブラックドラゴンの目の前に対峙した。
「お前の相手は、この僕だ」
静かに、力強く宣告する。
それに対して相手は、あのほくそ笑みを浮かべながら答えた。
「死ニゾコナイヨ。イマ一度、死ニニ来タカ? ソレトモ、汝ガ主ノ弔イ合戦ノツモリカ?」
「そのどちらでもないさ。僕は死にに来たんじゃないし、それにミリアは生きてるよ」
ディーノが獰猛な笑みを浮かべる。まるでなにかの仕返しをするように、相手のほくそ笑みにたいしてディーノは鋭い笑みを叩きつけていた。
「……ナルホド。シテ、我ニナニカ用カ?」
「決まってるだろ。倒しに来たんだよ、お前を」
「フハハハハハッ!! 主人ヲ欠クウヌニ、果タシテソレガ出来ルカナ!?」
「やってやるさ、来い!」
雷鳴が轟く。
ディーノは身を翻し、急降下を始める。ブラックドラゴンが後に続く。
黒炎球。いきなり放たれた敵の攻撃をディーノは旋回して避ける。しかし、それはおそらく牽制のための攻撃でしかないだろう。
予想されたとおり、ディーノの予想進路を狙って第2、第3の攻撃が降り注ぐ。
ディーノは飛行経路を右へ左へと振り、2発目3発目をすんでのところで避けた。3発目を避けたところで身体を回転させ、大地を背にするわずかな間に火炎球を放つ。追いすがるブラックドラゴンへのカウンター攻撃。
雷鳴が轟く。
もう、避けようともしなかった。
ディーノが放った火炎球を顔面でもろに受け止めて、ブラックドラゴンはそれでも何事もなかったような表情をしていた。
当然といえば当然だった。ミリアとの合わせ技で打ち出した、巨大ゴーレムを一発で屠ったあの一撃をまともに喰らいながら生きていたんだ。ディーノが単独で放つ火炎球など痛くも痒くもないだろう。
雷鳴が轟く。
ディーノはさらに滑空を続ける。風を切って一気に上昇する。その顔には獰猛な笑みを浮かべていた。
自分の攻撃は相手に効かない。そのどうしようもない現実を目の前で見せつけられて、それでもディーノは、その眼に揺るぎない自信を宿している。
それは、自分の身体にめぐる血がさせること。それは、自分の血の中に刻まれた記憶がさせること。
なんにも根拠なんてない。あんなやつに本当に勝てるのか。すごく不安だし、怖くないなんて言えば嘘になる。
雷鳴が轟く。
だけど、分かるんだ。
ホワイトドラゴン=ブリッツェン。
その血は確かに語る。僕は負けない!
背中を狙って放たれた相手の黒炎球を避けつつ、再び下降に入る。それも地面に対して90度、一直線に。
ブラックドラゴンも追ってくるが、ディーノの下降角度があまりに鋭く、加速する中、自分の身体にぶち当たる風圧に耐えるのがやっとで、完璧にディーノの背中を捉えているのに攻撃を出すことができない。
雷鳴が轟く。
雨雲に手が届くくらいの高度からの直角ダイブ。耳元では轟々と風がうなりを上げ、置き去りにした雨粒がいまや大地から降ってくるような感覚に囚われながら、地面がどんどんと迫ってくる。ディーノが眼を向ける先は、平原の中にあった雨で増幅し巨大な水溜りとなった湿地帯。
雷鳴が轟く。
それは絶妙なタイミングだった。
おそらく、ディーノの背中にいたブラックドラゴンにはそれが見えなかっただろう。
地面まであとわずかのところで、ディーノは眼下にある湿地めがけて火炎球を打ち込んでいた。
打ち込まれた火炎球は湿地帯の水を叩き、巨大な水柱をまき起こした。
ディーノはその水柱の脇を掠めて、地面すれすれを通り過ぎ、
ディーノを追ってきたブラックドラゴンにディーノが起こした水柱が被せられる。
雷鳴が轟く。
大量の泥を含んだ水柱は、ブラックドラゴンの瞼を塞ぎ、視界を失ったブラックドラゴンは、なす術もなく、
ドーン
ブラックドラゴン自身が墜落したことによる、より大きな水柱が立ち上がっていた。
その様子を、すでに高度を回復していたディーノが見据える。
雷鳴が轟く。
どうせ死んでなどいないだろう。
それでも、あいつを地面に下ろしただけ十分だった。なぜなら、
「お前の最大の弱点は、一度地面に降りてしまうとまた飛び立つまでに時間がかかること、だろ? お前のデカイ図体を見てて、なんとなく気付いたよ。ましてやそんな水溜りの中だ」
雷鳴が轟く。
ディーノがブラックドラゴンの終焉を口にする。
「お前が空に舞うことは、もうない」
「ヌカセ! 我ヲ地ニ付ケタトコロデ、我ヲ倒セヌ事実ニ変ワリハナイ!」
「……どうかな?」
雷鳴が轟く。
ディーノの身体はその時にはすでに変貌を遂げていた。普段の黒い瞳はいまは血のような鮮やかな赤に染まり全身の筋肉が隆起して浮き出た血管が身体中を伝う。
そして、腕や足にはタトゥーを施したかように複雑な文様が浮き出し、その文様の現れた箇所に腕や足に巻きつくようにして幾重にも光の魔法陣が展開される。
ディーノの身体に流れる“稲妻(ブリッツェン)”の血が覚醒していた。
雷鳴が轟く。
羽ばたくこともせずに、ディーノの身体は宙に浮いていた。
腕や足に展開された魔法陣からはアークが発せられ、大きく開かれたままの翼からは膨大な量の電撃が放出されて、
雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。雷鳴が轟く。
ディーノの頭上。周辺の雨雲から生まれ出た十数匹の雷龍が一点へと集積し、
「消エ失セロ!」
いまだ地上の水溜りでもがいていたブラックドラゴンが、その身をもって恐怖しながら最後の抵抗を試みた。
ディーノ目掛けて放たれる渾身の黒炎球。しかし、放たれた炎の球は見えない壁に阻まれてディーノには届かない。
もう、誰もディーノを止めることはできなかった。
雷鳴が轟く。
集積した稲妻が異国に伝えられる神話の“龍”の姿を借りてディーノへと達し、ディーノが身体に纏った魔法陣を介してさらに増大され、ディーノの身体よりも大きな雷の塊となって現れた。
そして、
「くらえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
雷鳴が轟く。
放たれた巨大な雷の塊は、あっという間にブラックドラゴンを飲み込み、
爆音を轟かせて巨大な光の柱が出現し、
衝撃波が空間を伝播して世界を覆っていた雨雲を退け、
光の柱は遥か天を貫き、
その姿は、遠方のゴルドナ大陸からも捉えることができたという。
間もなく、生み出された光の柱は音もなくその姿を消し、力の出現に平伏して静寂に沈む世界の中、吹き消された雨雲の合間を縫って注がれる日の光を受けながら、ディーノはひとり静かに大地へと降り立っていた。
↓NEXT Dragonballade chapter5
http://damennzwalker.blog.shinobi.jp/Entry/18/
4-1、
終わりの物語があれば、始まりの物語がある。
語り継がれる物語があれば、忘れ去られる物語がある。
歴史はすべての事象を飲み込み、時間の流れが物語を淘汰する。
そして、淘汰され忘れ去られた物語の中には実に多くの“語られるべき物語”が存在している。しかし、それらは忘れ去られたが故に誰にも語られることはない。
ならばせめて、いまここでひとつだけでも語ろうではないか。
時の流れの中に置き去りにされた、語られるべき物語を。
一人の少女と一匹のホワイトドラゴンを繋ぐ始まりの物語を。
それは、いまから4年前に遡る。
早朝。まだ日も昇らない時刻。エイリル王国の百竜騎士団が所有する地中の厩舎。眼を覚ますドラゴンはいまだなく、出入りする竜騎士の姿もない。
そんな静まり返った厩舎の一番奥、ひとつだけ離れたところに確保されたケージに一人の少女の姿があった。ケージには普通よりもかなり多めに藁が敷かれ、少女はその上に腰を下ろしている。
そして、その小さな身体で自分の胴体ほどもある大きな卵を優しく抱きかかえていた。
卵の中で何かが動いた。それを感じ取って少女はよりいっそうの優しい笑みを浮かべ、卵に頬を摺り寄せた。その優しさに満ちた表情は、愛しきわが子を抱く母親の微笑みに違いなかった。
どれくらいそうしていただろう。不意に少女は卵を自分の身体から離し、卵に向かって話しかける。
「君はもう大丈夫だよ」
誕生の時は近い。直感で少女はそのことを感じていたのかもしれない。
優しい穏やかな声で、少女は続ける。
「君じゃもう、その中は窮屈でしょう? だから、もうそんな狭いところから出ておいで」
少女の穏やかな声に対して、卵は少し戸惑っているようだった。それが証拠に、先ほどまではしきりに動いていたのに、いまはピクリとも動かなくなっていた。
それでもなお、少女は続ける。
「怖がらなくていいのよ。私がいつでも君のそばにいてあげるから……」
――私が、あなたのこと、きっと守ってみせる。
思いが通じたのか、卵の中で盛んに動き出す。卵の殻を中から引っ掻く音がする。
いよいよだ。いよいよ産まれる。
やがて、殻に小さな穴が開き、その穴は見る見るうちに大きくなっていって、
ドラゴンの赤子が卵にできた穴からひょっこりと顔を覗かせた。
「おはよう」
少女の笑顔がほころんだ。
まずなにから話せばいいのか分からない。話したいこと、話さなければならないこと。今までにあったこと、これから先のこと。
さまざまな思いが去来し、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
それでも最初はこれしかないだろう。
少女は思い、生まれたてのドラゴンの子供にこう告げた。
「お母さんの代役でごめんね。それでも、あなたの名前を一生懸命考えたの。気に入ってもらえるといいんだけれど。……いい? 今日からあなたの名前は“ディーノ”。勇気と希望を意味する名前よ」
気に入ったのかどうなのか、少女の言葉に対してドラゴンの子供は「カウーッ」と小さく鳴いた。
いまだ誰も眼を覚ましていない早朝のことだった。
↓NEXT Dragonballade chapter4-2
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3-2、
どうしようもなかった。
あまりに突然のことで、なにがなんだかわからなかった。
ミリアがなにか叫んだ気がして、なんだろうと思い後ろを振り返った。
そこに、ヤツがいた。
ブラックドラゴン=フェルツァ。
“恐怖(フェルツァ)”を名前に冠する漆黒のドラゴン。
そのとき僕が抱いたのは、間違いなく恐怖だった。
黒いドラゴンは、大きく口を歪めてほくそ笑んでいた。
歪めた口で僕らに言い放った。
「遊ビハ終ワリダ。失セロ、弱者ヨ」
どうしようもなかった。
恐怖が放つ黒い火の玉は、避けようがなかった。
それ以上に、
僕の背中から飛び出すミリアを、止めようがなかった。
最後の瞬間、ミリアはまるで僕を庇うように、ひとり黒い火の玉に向かって飛びすがり、その身を盾として、
「防護光壁(レイウォール)!!」
そんな技が、いったいどれくらい役に立ったのだろう。
ミリアの小さな身体は炎の中へとあっけなく消えていった。
雨。
気付いた時には草が生い茂るだだっ広い平原の只中、降りしきる雨に身を打たれながら地面に突っ伏していた。
意識を取り戻す。しかし、頭が正常に働かない。ディーノは自分の身になにが起きたのかがしばらく分からずにいた。
背中で叫ぶミリア。背後にいた黒いドラゴン。浮かべられたほくそ笑み。迫る黒炎球。僕の背中からミリアが飛び出して。炎の中に消え。爆発。自分の身体は爆風に軽々と吹き飛ばされて。
「 !」
すべてを鮮明に思い出し、ディーノは弾かれたように飛び立った。ミリアの姿を探して。
大丈夫。そんなに遠くまでは飛ばされてはいないはずだ。
自分が飛ばされてきたと思しき方角に低空で飛びながら、ディーノは周辺を注意深く探った。果たして、ミリアの姿はすぐに見つかった。
いよいよもって強く降り出した雨の中、ミリアはその身を大地に横たえていた。
ブラックドラゴンの姿はすでにそこにはなかった。
「ミリアーーーーーーーッ!!!」
傍に降り立ち声を掛けるディーノ。しかし、ミリアは微動だにしない。
落ち着け。落ち着くんだ。ミリアは死んでなんかいない。
なにをする。まずなにをすればいい。
とにかく、味方のところまで運ぼう。自分に出来ることはそれくらいしかない。
そう判断し、その前にディーノはミリアの鼻先に耳を近づけた。
空気が、動いた気がする。息をしている? ダメだ、小さすぎてわからない。
そのまま耳を、今度はミリアの胸元に置いた。
彼女が着ている甲冑が邪魔だった。胸の上下動がその下に隠れてしまってわかりづらい。まわりの雨音も鬱陶しかった。
それでも、なんとか聞くことができた。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
ミリアの鼓動。
よし、大丈夫だ! ちゃんと心臓は動いてる。後はミリアを……。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
耳が離れなかった。
あたりを賑わす雨音はすでにディーノの耳には入ってこない。降りしきる雨の中、ディーノはひとり、その音に聞き入った。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
聞き覚えのある懐かしい音。
いつの事だっただろう。
この音に揺られながら、鼻歌を歌っていたのは。
いつの事だっただろう。
この音と共にもたらされる、あの暖かさに身を任せていたのは。
↓NEXT Dragonballade chapter4-1
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3-2、
雨。
エイリルの王都上空を抜け、その先の農地や牧草地を越えて、ノキアスの波状丘陵の先。
ミリアとディーノが合戦場となっているオルドビス平原に着くころに、ぐずぐずと鼻を鳴らしていた空がついに泣きはじめた。
それほど雨脚は強くはなかったが、それでも視界の悪化は否めない。
天候は、どうやらラスタの味方をしているらしい。
波状丘陵の内側に数箇所設置された、オルドビス第二防衛ラインの拠点にはすでに各部隊が集結し、迎撃に向けて慌しく動いていた。
その拠点の上を越え、さらにノキアスの丘陵を越えるといよいよ眼前にオルドビスの大平原が姿を現した。
ノキアス丘陵外側すぐのところに魔導士部隊が陣取って遠方からの魔法攻撃を行っている。その先、魔導士部隊の魔法攻撃が着弾している地点よりは少し手前のところで神剣騎士団がトロルを相手に戦っている。その上空には百竜騎士団の部隊が展開し、キメラ部隊と交戦していた。
その光景を眼にして、ミリアは瞬時に違和感を覚える。
――おかしい。
天気は雨だ。空を駆る竜騎士を主戦力とするエイリル王国軍にとってそれは少なからぬハンデになる。自国領内であるとはいえ、この大草原が舞台では生かせる地の利もそうそうあるものでもない。戦況は明らかにこちら側に不利に働いている。
それが、実際にはどうだろう。
戦闘は圧倒的に味方の方が押していた。
しかし、あの時エドと二人きりになっていた会議室に飛び込んできた伝令役はこう叫んだのだ。
『中央のオルドビス第1防衛ラインがラスタ帝国によって突破された模様!! 百竜騎士団第Ⅰ小隊のε班および神剣騎士団重曹第8~10歩兵隊壊滅!! 死傷者多数!』
目の前に広がる光景は、とてもそんな劣勢に立たされている様な光景には見えなかった。
それに、もうひとつ気になることがある。ラスタの陣営に生身の人間の姿がないこと。
たとえゴーレムやトロルを前面において戦うのだとしても、それらを統率するための人間が必ず必要なはずだ。しかし、その統率するべき人間の姿さえ、この戦場にはない。
それゆえ、キメラ部隊もトロル部隊も行動に均一性を欠き、部隊としてまるで機能していなかった。
しかし、ここは間違いなくオルドビス第1防衛ラインの内側だった。ヤツらが第1と第2の防衛ラインのちょうど真ん中に突然沸いて出たのでない限り、第1防衛ライン突破の報は間違いなく事実だろう。
――おかしい。絶対になにか裏がある。
この劣勢を一気に覆すだけの“裏”が敵陣のどこかに隠れているはずだ。そう思ってミリアは、上空を旋回しながらあたりを鋭く見回した。
しかし、その“裏”は突如として上から降り注いだ。
飛来する赤黒い黒炎球。
強大な力を秘めた炎の球は戦場のど真ん中へと打ち込まれ、
展開していた竜騎士部隊を、交戦していた神剣騎士隊を、味方のキメラ部隊やトロル部隊をも飲み込み、一瞬にして消し去っていた。
立ち上る巨大な火柱。
地を揺るがすほどの轟音。
わずかに時を置いて吹き付ける猛烈な風に煽られながら、
「ミリア、上っ!!」
それでもディーノは遥か上空の一点を指し示していた。
烈風の治まりを待ってミリアも空を凝視する。
泣き続ける雨の中、雨雲のすぐしたあたりの高度を黒い点が飛行しているのが見えた。
わずかに見えるその形は、
「……あれって、まさか」
「とにかくあそこまで行くわよ!」
雨。
降りしきる雨は、段々とその雨脚を強め、あちらこちらで稲光が見られるようになった。
そんな、空から降ってくる雨粒に逆らうように、ミリアとディーノは上昇を続ける。
目指すは、オルドビス上空に姿を現した黒い影。ミリアが予見した“裏”の正体。なるべく相手に悟られないよう、いったん相手の背後にまわってから上昇を始めた。その黒い影の姿が徐々に大きく見えてくる。
地上近くから始めてその姿を眼にしたとき、ミリアもディーノもそいつの正体がなんであるか、すぐに気付いていた。しかし、それは到底、認められるものではなかった。
それももう、認めざるを得ない。
そいつは、
「くらえーーーーーーーーーーっ!!」
射程圏内に入ったところでディーノは立て続けに6発もの火炎球を打ち込んだ。しかも、後から放った5発は1発目を避ける時に予想される回避経路をすべて埋める形で放たれていた。
しかし相手は、その大きな体躯に似合わない俊敏な動きでディーノの張った弾幕の外側へするりと抜けてしまう。
旋回する黒い影と上昇を続けるディーノとが交差する。
その黒い影の姿を横目に見ながら、ディーノが信じられないといった口調で、
「……ほんとうに、ドラゴン?」
「ええ、……ブラックドラゴン=フェルツァ」
黒い影の姿を横目で追いながら、ミリアは影の正体を口にした。
黒い鱗。巨大な翼。ディーノの3倍はあろうかという大きな身体。鋭い金色の双眸。その背中に、
その背中に竜騎士の姿はなかった。
「……なんだって、ラスタにドラゴンなんかいるのさ!? しかも単体? どういうこと!?」
「わからない。……わからないけど」
“ドラゴン”という絶大な力は、もうエイリル王国だけのものではなくなった、ということなのかもしれない。
敵国と対峙したとき、ドラゴンの力は絶対で、その力は常にエイリル王国だけが持っていたものだった。この国が700年以上にも渡ってこの地で栄えてきた確固たる所以がそこにはある。
しかし、その定式は、いまこの瞬間をもって崩れようとしているのかもしれない。
いま対峙しているこのブラックドラゴンが単発のものなのか、それとももう一部隊を形成できるだけの数がラスタ帝国にはあるのか、この時点ではなんともいえない。
しかし、ラスタが年々力を付けてきているのは明らかだ。一昨日の巨大ゴーレムにしてもそうだ。彼らの軍力はエイリル王国のドラゴンを超えようとしている。
エイリル王国を支えてきたドラゴンの力は、もう、絶対ではなくなったのかもしれない。
その考えにミリアは戦慄した。
……ならば。
――負けるわけにはいかない!
自分たちの力を絶対のものとするには、このドラゴンを倒してそれを証明しなければならない。この闘いは、ホワイトドラゴンの竜騎士と単体のブラックドラゴンとの闘いなんかじゃない。そのまま、エイリル王国とラスタ帝国の戦いを意味するものだ。
この闘いの敗者は、滅ぶのみ。
――負けるわけにはいかない!
「……いくよ、ディーノ」
「うん!」
雷鳴が轟く。
悲壮な決意を胸に、ミリアとディーノは空を駆る。
一度大きく羽ばたく。降りしきる雨粒を散らして旋回し、相手の背後を狙う。
そうはさせまいと、ブラックドラゴンは空中で身体を捻り、後頭部から逆さまに落ちるように急降下。一気に雨粒を置き去りにするほどの速度を得て落ちて行く。
後を追って降下。しかし、その時には相手はすでに上昇の態勢に入っている。
動け! 反応しろ! もっと早く! 相手よりも早く!
追って下降から上昇。しかし、相手の背中は狙えない。
ブラックドラゴンは上昇の態勢からそのまま縦に円を描く軌道に入る。それを追ってディーノも空に弧を描く。
大地が頭の上を通り、雨雲が足元に広がる。ミリアは襲いくる猛烈な風圧に耐えながらも必死に敵の位置を見定める。
まだだ! まだ届かない!
雷鳴が轟く。
天と地が元の位置に戻ってきたところで、今度は左に急旋回。ディーノが後を追う。
そのまま旋回を続け、二匹のドラゴンが同じ円の上を背中合わせで飛ぶ。
これ以上円周を縮めたら失速して落ちる。そのギリギリまで詰めるがブラックドラゴンの背中を捉えられない。敵はどうあっても、背中を取らせないつもりのようだ。
2、3回、背中合わせに回ったところで水平飛行へ。そこからすぐに、螺旋を描くような錐揉み回転をして一気に上昇へ移る。
逃がすもんか! 絶対に追いついてやる!
風を切り雨を弾きながら空へ。
瞬間、捉えた相手の背中にディーノが火炎球を放つ。相手の尻尾に噛り付けそうなくらいの近距離から放った一撃は、しかし、ブラックドラゴンがまたしても縦旋回。火炎球は掠りもしない。さらに後を追う。
ブラックドラゴンは2度の縦旋回の後、今度は右に旋回。
一方、ディーノは1度の縦旋回の後、左旋回。
旋回の軌道上で、お互いが真正面からぶつかる形になる。今度は相手も打ってきた。
黒い火炎球と白い火炎球。お互いのすぐ横を掠めて、二つの火炎球が交差して行った。
黒いドラゴンを頭上に睨み、白いドラゴンを眼下に見据えて、二匹が交錯する。
雷鳴が轟く。
ブラックドラゴンはそのまま更なる上昇を始める。
対してディーノは一気に速度を落とし、身体を無理やりねじって反転させ進路を180度転換してブラックドラゴンの後を追う。速度を落としたために開いてしまった距離を埋めるべく翼に力をこめた。横暴なまでの風を巻き起こし、ディーノの身体が加速する。
さらに空へ。
途中、ブラックドラゴンはまたしても縦旋回を見せる。しかし、今度は回避が目的ではない。こちらの背後を狙うための経路。
させるか!
それに対して、ディーノは上昇しながら小さく左旋回。相手がこちらの背中を捉えるはずだった位置を掠め、再びブラックドラゴンの背中を狙う位置につける。
ディーノの優勢は揺るがない。
相手はその大きな身体の割に俊敏な動きを見せる。実際、追いつけそうでなかなか追いつくことが出来ない。しかし、飛翔の加減速に関しては身軽なディーノの方にかなり分があった。結果、徐々にではあるがディーノがブラックドラゴンを追い詰める形になっている。
行ける!
その後もブラックドラゴンは複雑な飛行進路を取り、なんとかディーノを振り切ろうと試みているようだが、ディーノはその背後にぴったりとくっついて離れない。
徐々に、ディーノの攻撃回数が増えていく。それは同時に、ブラックドラゴンの背中が近づきつつあることを意味していた。完璧に捕捉するのはもはや時間の問題だった。
雷鳴が轟く。
そして、その時が来た。
それは明らかに、相手のミスだった。下降から上昇への進路を取ろうとしたとき、その角度があまりに急だったためにあえなく失速。上昇することも一気に下降する事も出来ず、空中に漂ってしまう。浮力を失ったせいで顔をまっすぐこちらに向けていることすらできず、
相手を追って降下してきたディーノにはその背中が丸見えだった。
「いまだ!」
その背中めがけて必殺の一撃を繰り出す。巨大ゴーレムを打ち抜いたあの一撃。
実を言えば、この空中戦の最中ミリアは転換の魔法陣を待機(スタンバイ)の状態でずっと止めていた。その時が来るのを待って。
その時が訪れた。
「集積は光となる!」
温存していた最後の言葉を放ち、ミリアは虚空に魔法陣を展開する。
「いっけーーーーーーーーーーーーっ!」
その魔法陣を介して、ディーノの火炎球はその威力を圧倒的なものとし、
ブラックドラゴンの背中を完璧に捉えていた。
轟きと閃光の中にブラックドラゴンの姿は埋没し、しばらくの後には、あたり一面を濛々と立ち込める煙が包んでいた。
「やったーーーっ!」
立ち込める煙を横目に通り過ぎながら、ディーノが喚起の声を上げた。
これで負けたら自分の国が消えてなくなってしまうかもしれない。そんな悲壮感からようやく開放され、声にこそしなかったが、ミリアはひとつ大きく息を吐き胸を撫で下ろした。
勝った。これでエイリルが滅びることはない。
雷鳴が轟く。
相変わらず雨は降り続いていたが、気分は晴れやかだった。
「やったねミリア! あとはいつものザコを倒せば終わりだね♪」
そうだ。まだ戦いは終わってない。
ブラックドラゴンを追いかけているうちにかなり離れたところまで来てしまったが、第2防衛ラインの近辺にはまだキメラやトロルの部隊が残っているはずだ。そいつらを倒さない限り、本当に終わったとはいえない。
「そうだね。気合入れて、最後まで頑張ろう!」
「うん! よーし、ちゃっちゃと片付けてとっとと帰るぞー!」
気分はやたらと晴れやかだった。なにかとても大きなことを成し遂げられた気がした。
いつもならそんなことはたいして望まないだろうが、今日は違う。自分たちのしたことを誰かに褒めて欲しい。むちゃくちゃに褒めちぎって欲しい。そんな気分だった。
第Ⅰ小隊の連中はきっと悔しがることだろう。また、なんだかんだとイチャモンを付けてくるに決まってる。でも、今回ばかりはぐうの音も出ないはずだ。
あいつの姿を見た兵士が何人もいるはずだ。きっと証言はあちこちから出てくるだろう。
雷鳴が轟く。
ミリアの顔に自然と笑みが浮かぶ。自分が倒した敵の大きさを思う。
そして、その巨大な敵を倒したという事実をもう一度確認するように背中を振り返り、
“そいつ”はそこにいた。
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