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3-2、
どうしようもなかった。
あまりに突然のことで、なにがなんだかわからなかった。
ミリアがなにか叫んだ気がして、なんだろうと思い後ろを振り返った。
そこに、ヤツがいた。
ブラックドラゴン=フェルツァ。
“恐怖(フェルツァ)”を名前に冠する漆黒のドラゴン。
そのとき僕が抱いたのは、間違いなく恐怖だった。
黒いドラゴンは、大きく口を歪めてほくそ笑んでいた。
歪めた口で僕らに言い放った。
「遊ビハ終ワリダ。失セロ、弱者ヨ」
どうしようもなかった。
恐怖が放つ黒い火の玉は、避けようがなかった。
それ以上に、
僕の背中から飛び出すミリアを、止めようがなかった。
最後の瞬間、ミリアはまるで僕を庇うように、ひとり黒い火の玉に向かって飛びすがり、その身を盾として、
「防護光壁(レイウォール)!!」
そんな技が、いったいどれくらい役に立ったのだろう。
ミリアの小さな身体は炎の中へとあっけなく消えていった。
雨。
気付いた時には草が生い茂るだだっ広い平原の只中、降りしきる雨に身を打たれながら地面に突っ伏していた。
意識を取り戻す。しかし、頭が正常に働かない。ディーノは自分の身になにが起きたのかがしばらく分からずにいた。
背中で叫ぶミリア。背後にいた黒いドラゴン。浮かべられたほくそ笑み。迫る黒炎球。僕の背中からミリアが飛び出して。炎の中に消え。爆発。自分の身体は爆風に軽々と吹き飛ばされて。
「 !」
すべてを鮮明に思い出し、ディーノは弾かれたように飛び立った。ミリアの姿を探して。
大丈夫。そんなに遠くまでは飛ばされてはいないはずだ。
自分が飛ばされてきたと思しき方角に低空で飛びながら、ディーノは周辺を注意深く探った。果たして、ミリアの姿はすぐに見つかった。
いよいよもって強く降り出した雨の中、ミリアはその身を大地に横たえていた。
ブラックドラゴンの姿はすでにそこにはなかった。
「ミリアーーーーーーーッ!!!」
傍に降り立ち声を掛けるディーノ。しかし、ミリアは微動だにしない。
落ち着け。落ち着くんだ。ミリアは死んでなんかいない。
なにをする。まずなにをすればいい。
とにかく、味方のところまで運ぼう。自分に出来ることはそれくらいしかない。
そう判断し、その前にディーノはミリアの鼻先に耳を近づけた。
空気が、動いた気がする。息をしている? ダメだ、小さすぎてわからない。
そのまま耳を、今度はミリアの胸元に置いた。
彼女が着ている甲冑が邪魔だった。胸の上下動がその下に隠れてしまってわかりづらい。まわりの雨音も鬱陶しかった。
それでも、なんとか聞くことができた。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
ミリアの鼓動。
よし、大丈夫だ! ちゃんと心臓は動いてる。後はミリアを……。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
耳が離れなかった。
あたりを賑わす雨音はすでにディーノの耳には入ってこない。降りしきる雨の中、ディーノはひとり、その音に聞き入った。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
聞き覚えのある懐かしい音。
いつの事だっただろう。
この音に揺られながら、鼻歌を歌っていたのは。
いつの事だっただろう。
この音と共にもたらされる、あの暖かさに身を任せていたのは。
↓NEXT Dragonballade chapter4-1
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