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4-1、
終わりの物語があれば、始まりの物語がある。
語り継がれる物語があれば、忘れ去られる物語がある。
歴史はすべての事象を飲み込み、時間の流れが物語を淘汰する。
そして、淘汰され忘れ去られた物語の中には実に多くの“語られるべき物語”が存在している。しかし、それらは忘れ去られたが故に誰にも語られることはない。
ならばせめて、いまここでひとつだけでも語ろうではないか。
時の流れの中に置き去りにされた、語られるべき物語を。
一人の少女と一匹のホワイトドラゴンを繋ぐ始まりの物語を。
それは、いまから4年前に遡る。
早朝。まだ日も昇らない時刻。エイリル王国の百竜騎士団が所有する地中の厩舎。眼を覚ますドラゴンはいまだなく、出入りする竜騎士の姿もない。
そんな静まり返った厩舎の一番奥、ひとつだけ離れたところに確保されたケージに一人の少女の姿があった。ケージには普通よりもかなり多めに藁が敷かれ、少女はその上に腰を下ろしている。
そして、その小さな身体で自分の胴体ほどもある大きな卵を優しく抱きかかえていた。
卵の中で何かが動いた。それを感じ取って少女はよりいっそうの優しい笑みを浮かべ、卵に頬を摺り寄せた。その優しさに満ちた表情は、愛しきわが子を抱く母親の微笑みに違いなかった。
どれくらいそうしていただろう。不意に少女は卵を自分の身体から離し、卵に向かって話しかける。
「君はもう大丈夫だよ」
誕生の時は近い。直感で少女はそのことを感じていたのかもしれない。
優しい穏やかな声で、少女は続ける。
「君じゃもう、その中は窮屈でしょう? だから、もうそんな狭いところから出ておいで」
少女の穏やかな声に対して、卵は少し戸惑っているようだった。それが証拠に、先ほどまではしきりに動いていたのに、いまはピクリとも動かなくなっていた。
それでもなお、少女は続ける。
「怖がらなくていいのよ。私がいつでも君のそばにいてあげるから……」
――私が、あなたのこと、きっと守ってみせる。
思いが通じたのか、卵の中で盛んに動き出す。卵の殻を中から引っ掻く音がする。
いよいよだ。いよいよ産まれる。
やがて、殻に小さな穴が開き、その穴は見る見るうちに大きくなっていって、
ドラゴンの赤子が卵にできた穴からひょっこりと顔を覗かせた。
「おはよう」
少女の笑顔がほころんだ。
まずなにから話せばいいのか分からない。話したいこと、話さなければならないこと。今までにあったこと、これから先のこと。
さまざまな思いが去来し、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
それでも最初はこれしかないだろう。
少女は思い、生まれたてのドラゴンの子供にこう告げた。
「お母さんの代役でごめんね。それでも、あなたの名前を一生懸命考えたの。気に入ってもらえるといいんだけれど。……いい? 今日からあなたの名前は“ディーノ”。勇気と希望を意味する名前よ」
気に入ったのかどうなのか、少女の言葉に対してドラゴンの子供は「カウーッ」と小さく鳴いた。
いまだ誰も眼を覚ましていない早朝のことだった。
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