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ドラゴンバラード
紫雲 正宗
0、
――それは、いまだ神話と歴史が混在していたころの物語。
――数多の英雄たちが神々の力を借りていくつもの功績を為していたころの物語。
そこは僕にとって、とても暖かく居心地のよい世界だった。
温もりの小さな海に漂って、僕は毎日夢を見ながら時を過ごした。
ただ、時々目を覚ますことがあった。それは、僕の世界が一段と温もりに包まれる時。
その温もりと一緒に聞こえてくる音。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
その暖かい音に合わせて鼻歌を歌うのが僕はすごく好きだった。
だけど、僕はその暖かい音がどこから聞こえてくるのかよく分からなかった。僕の世界はまわりすべてが白い壁に囲まれていて、音はどうやらその壁の向こう側から聞こえてくるみたいだった。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
もっと、あの暖かい音を聴きたい。この壁越しにじゃなくて直にあの音に触れてみたい。
だけど、この場所から出て行ってはいけないような気がした。一度出てしまったら、もう戻れないんじゃないかっていう気がした。
それがとても怖かった。
……トクン……トクン……トクン……トクン……
その日も僕は、壁越しに伝わってくる温もりと優しさに包まれながら鼻歌を歌っていた。
その頃になると、僕の世界を満たしていた温もりの小さな海は涸れてしまい、それでも僕の世界は心地よいものに変わりはなかった。
以前と変わらない、そこは僕にとって幸福な世界だった。その中で僕は、暖かい音に包まれながら鼻歌を歌っていた。
だけど、ある瞬間、急に温もりが遠ざかり、あの暖かい音も聞こえなくなってしまった。
そして、その代りに、
「君はもう大丈夫だよ」
声が聞こえた。
とても優しい、穏やかな声だった。
「君じゃもう、その中は窮屈でしょう? だから、もうそんな狭いところから出ておいで」
壁の向こう側で“誰か”が僕を呼んでいた。
誰か? 誰かって誰だろう? ここには僕しかいないはずなのに……。
「怖がらなくていいのよ。私がいつでも君のそばにいてあげるから……」
もう戻って来れないんじゃないか、なんてことはもう怖くなくなっていた。
ただ、その優しい声に、そしてあの温もりと心地よい音に、もっと触れてみたくて、僕は僕の世界を取り囲んでいる白い壁に手を伸ばした。
柔らかそうに見えた白い壁は思ったよりも硬くて、僕は爪を立てて壁を引っ掻いた。
そうやって何度か壁を引っ掻いているうちに、ついに壁にヒビが入った。
壁に入ったヒビは小さな穴を穿ち、あとはあっけないくらいにその周りから壁は崩れていき、
僕は僕の世界の殻を割った。
初めて目にする外の世界。そして目の前にはいつも温もりをくれていたヒトがいた。
「おはよう」
いったい、このヒトは誰なんだろう? なんかぼやけてて良く見えないや。
……だけど、なんとなく僕の頭の中にこんな言葉が浮かんだ。
“お母さん”
お母さん? お母さんってなんだろう?
わからない。けど、あの温もりと暖かい声をくれたヒト。やっぱり、“お母さん”が一番ぴったりな気がする。
あれ? そういえば僕って誰なんだろう?
その答えは、僕の体に流れる血がすぐに教えてくれた。
そうだ、僕はドラゴン。ホワイトドラゴン・ブリッツェン。
それが、僕の血が語る名前だ。
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