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2-1、
スノート、卵なんていつのまに孕んでたの? 全然知らなかったよ。
ごめんなさい。別に隠すつもりはなかったんだけど。ほら、なにしろ私も初めてのことだから。
そっか。……ねぇ、赤ちゃんどれくらいで孵るの?
うーん、だいたい7ヶ月から1年くらいだって。
ドラゴンって、お乳をあげたりするの?
ううん、それはないわ。っていうか、本来は親が子育てすることもないのよ。その辺は邪眼蜥蜴(バジリスク)や火蜥蜴(サラマンダー)と一緒。
卵を温めたりとかもしないの?
本来は、ね。だいたいは卵を土の中に産んで後は自然に任せるって形かしらね。だから、親の顔も子供の顔も知らないっていうのが普通なのよ。
そうなの!?
うん、そう。人間にはわからないだろうけどね、それが普通なのよ。私たちには。もっとも、ここじゃ土の中に埋めるわけにも行かないからちゃんと温めてあげないとだけどね。
ふぅ~ん。……スノート、もうすぐお母さんになるんだね。
そうね。
ねぇ、お母さんになるってどんな感じ?
ふふふっ、ミリアも赤ちゃんを産めばわかるんじゃない? お母さんになるのがどんな感じかってネ。
えっ!? ……そ、んな。いきなしそんなこと言われても。
なに赤くなっちゃってるのよ。耳まで真っ赤よ。
だって、“赤ちゃんを産めば”なんてスノートがいきなり言うから……。
ふふふっ、おかしなミリア。
もうっ! からかわないでよ!
ごめん、だって面白いんだもの。
……んもうっ。…………でも、……そっか。スノートの赤ちゃんか。じゃあ、しばらくの間は無理できないね。
うん。でも大丈夫よ。ここしばらく出動もないし。
だといいんだけど。……あれ? ちょっとまって。
? なあに?
……この子のお父さんて、誰?
ふふっ。それは、ひ・み・つ。
えーっ、そんなのずるーい。ねえ、誰なの? 教えてよ。
だぁめ。これだけはいくらミリアでも教えられないわ。
なんでよ、いじわる。
ふふっ、じゃあひとつだけ約束して。
いいわよ、どんな約束すればいいの?
もし、私の身になにかあったらこの子をお願いね。
静かに目を覚ましたとき、ミリアの頬には涙があった。
エイリル王国軍兵士の朝は早い。
まず日の出とともに各小隊ごとに朝礼を行い、点呼を取り、おのおのの健康状態をはかり近況報告が行われる。
次に、隊長クラスが中央会議室に一同に介し、内政を取り仕切る宰相や家臣同席のもと全体会議を行なう。そこで話し合われた内容は、再び各小隊ごとに行われる二次ミーティングによって兵士全員に伝えられるようになっている。
のだが。
百竜騎士団に所属するドラゴンたちが寝泊りしている長大な厩舎。普通の厩舎とは違いここの厩舎は地中に設けられている。普段、ドラゴンたちはドーム状に細長く掘られたこの厩舎の中で過ごし、出動の際には頭上にある細長く帯状に開いた穴から地上へと飛び出していく。
ここから見上げる長方形の空は、いまようやく朝を迎えたばかりだった。
そんな地中厩舎の一角で百竜騎士団第Ⅲ小隊を束ねるセルマー=グリッジは居並ぶ隊員たちの顔を眺め、頭を抱えながら重いため息を吐き出した。
そこに居並ぶ面々とは、
一人。目の下に隈を作り、「私の眠りを妨げるやつは何人たりとも許さん」と表情だけで語りかけている隊の副隊長、ミリア=エトワール。
一人。メガネを逆さに掛けぼっさぼさの寝癖もそのままで、どういうわけかかなり分厚い本を小脇に抱えている、エミリアン=ハーシェル。
一人。あなたどこぞのお姫様ですか?と聞きたくなるようなフリフリパジャマそのままに、欠伸なぞをかましてる、メグ=ウィルコット。
「――ったく。なんだって、ウチの連中はこう揃いもそろって寝起きの悪いのが揃ったかね? 大体なんだよ、そのド派手な隈は? その逆さのメガネは? そのお姫様みちょーなパジャマは?」
ひとりひとりを指差しながらセルマーが問いただしていく。それに対して、
ミリア曰く、
「いろいろと心中穏やかでないお年頃なの。安眠なんて到底望めない時期なのよ。普通に寝てたって隈のひとつもできるのよ。その辺のこと、考慮していただかなくちゃ困りますわ」
続いてエミリアン曰く、
「いやぁ、こうすることによって普段とはまた違った世界を見ようというひとつの試みを行っているんですよ。誰だったかな? 有名な哲学者の言った言葉。“世界とは人の数だけ存在する”って、あの言葉の意味がわかった気がしますね」
最後にメグ曰く、
「あっれぇ? おかしいな、着替えたはずなのに……。きっとこれは神様が『メグちゃん、最近お疲れね。もうちょっと寝ててもいいんじゃない?』って言ってくれているんだと思いま~す」
「あー、はいはい。大体の事情はわかった。……それで? この中でまだ眠くて仕方ないってヤツはいるかな?」
三者三様の申し開きを聞いて、なんじゃそりゃ!と心の中でツッコミを入れるセルマー。苦笑いを浮かべながら点呼代わりに投げやりな問い掛けをする。
「いたら手を上げて」
自ら軽く手を上げて、挙手を促す。
すると、間髪いれずに三つの手がスッと上げられていた。
「…………はい。第Ⅲ小隊、全員健康状態に異常なし。今日も元気に行きましょう。これにて朝礼終了~。ごくろーさまでした」
『おつかれさまでーす』
たったそれだけのやりとりで本当に朝礼を切り上げようとしている第Ⅲ小隊のメンバー。その様子を後ろでずっと見守っていたディーノが思わず口を挟む。
「……そんなんでいいの?」
すると、隊長以下小隊全員の視線が一斉にディーノへと向けられ、
『なにか問題でも?』
隊長以下小隊全員の声が見事にハモっていた。
そろって小首を傾げている隊長以下小隊全員の姿を目の前にしてディーノは顔をこわばらせ、
「い、いや。なんでもないです」
消えてしまいそうな小さな声でそう答えるほかなかった。
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